ジュエリーのトレンドを牽引し、今勢いがあるブランドとして大人世代に絶大な支持を誇る「ヒロタカ」。そのブランドの人気の秘密をデザイナーの井上寛崇さんにロングインタビュー。話題も経験も豊富で、一度お話したら誰もがファンになってしまうハッピーでポジティブな寛崇さん。インタビューが終わる頃には「寛崇さんの作るジュエリーが欲しい!身につけてみたい!」と思わせる強烈な幸せオーラに溢れていました!
片耳ピアスやイヤーカフが市民権を得るまで
今でこそ世に浸透した、片耳ピアス、イヤーカフに重ね付け…ですが、すべて生みの親が同じ人だってこと、皆さんはご存知ですか? それが今回ご紹介する“ヒロタカ”のデザイナー井上寛崇さんです。N.Y.から火がつき、日本でも人気のジュエリーブランドになるまでのクリエーションストーリーを伺いました。
本物の素材を使って片耳でのスタイリングのデザインをデビュー当時もしていましたが、受け入れられるまでには時間がかかりました。
2010年、スーツケース1個に作品を詰め込んでN.Y.に降り立ったんですね。そこは2000年初頭に大人気だったTVドラマ『S.A.T.C』の世界さながらで、その実写版のような人達との仕事がスタートしました。
当時のエディターやスタイルストたちは、耳の内側に沢山ピアスをしていて、そのスタイリングがとても新鮮で、洗練されたアート作品のようでした。と耳がキュレーションされているというか、ミュージアムみたいだったんですよ(笑)。でもそれを日本でそのまま取り入れるのは難しいだろうなぁ、と思いついたのが穴を開けずにできるイヤーカフでした。
ジュエリーデザイナーへの道は順調に?
いえいえ、初めはアポの取り方さえ分かりませんでした。資金もありませんから大変でしたよ。
とにかくニューヨークで認められたらどうにかなるかも。とがむしゃらでした。
あきらめずに当時新人デザイナーの登竜門と言われたバーニーズ ニューヨークに作品を持ち込み、2年越しで認められたときは、今も一緒に仕事をしているPRのスタッフと道にじっと座って、うれしくて泣きました。
コレクションの大半をすべて買い取ってもらえたのですから、感無量でした。
その時のコレクションの一つに今も人気の“アロー”がありました。
Hirotakaを代表するアロー
これは私にとって思い入れのあるデビュー作品で、このカーブを作るために鉛筆や万年筆で何度も描いて、針金で試してやり直し、職人さんと何度も吟味し、試行錯誤が続きました。
あるときはお客様が壊れて修理に持ってきたラインの方が素敵だったので、そちらのラインに修正したモデルもあるんですよ(笑)こっちの方がいいね!みたいな遊びがあっていいじゃないですか。ジュエリーって遊びがないとつまらないですよね!
“アロー”も最初から片方だけですか?
そうです。今でこそ、片耳ピアスでアシンメトリーなスタイルが浸透した感がありますが、2013年当初は、日本のバイヤーには『お客様は保守的だから、片耳だけの買い付けは難しい…』と言われていました。
海外では逆に、左右異なるミスマッチペアを提案されてスタートしましたが、現在では片耳での提案が定着しています。
やっとのことで買い付けのアポにこぎつけることが出来たバーニーズ ニューヨークでは、まず『完全にオリジナルなスタイル』がないと新しいブランドの取引はしないというルールがあることを伝えられ、その上で『ヒロタカはオリジナリティに溢れているから買い付けが決まった!』と言ってもらえました。
その時、パールアロー、ダイヤモンドバー、ダイヤモンドイヤカフ、フローティングピアスを一気に買い付けしてもらえたのです。
あ〜認めてもらえたんだ、と本当にうれしかったですね。
“イヤーカフ”というネーミング、ヒロタカさんが名付け親だそうですね!
これ、小さな自慢になってしまいますが、イヤーカフを最初にバイヤーに見せたとき『これは何と呼ぶの?』と尋ねられ、とっさに『イヤーカフと呼ぶのはどうか?』と提案したのです。思いついたのでつけたのですが、そのネーミングが今や定着したように感じています。
付けやすいボリューム感のあるイヤーカフ
イヤーカフの良さは、お手持ちのピアスとのコンビネーションを楽しめたり、付ける位置によっても印象が変わります。
私は仕事柄でしょうか、人の顔を観察するのが大好きで(笑)。眉の位置や耳の形によって、似合うものっが違うので、付け方を様々提案しています。
ジュエリーは、もっと自由に遊んで、自分流に楽しむもの。ルールはありませんから、思い出の海岸で拾った貝殻とかをネックレスに重ねてみたり、自分らしいアレンジをしてもらっても素敵だなあと思っています。
デザインもスタイリングもされるんですね!
カタログや撮影のスタイリングはモデルのオーディション含めすべて私がしています。
2014年に、イヤーカフを片耳に10個以上つけて撮影したのが注目されて『VOGUE PARIS』にも取り上げられました。
非日常感のドラマのあるスタイリングはアート表現としても面白いです。
そして、お客さまの中には、そうやってスタイリングした世界観を、日常的にそのまま取り入れてくださる方もいらっしゃるので、デザイナーとしてはさらに面白くやりがいがありますね!
デザインはどうやって進めていくんですか?
いつも万年筆とえんぴつを持ち歩いていて、思いついたら落描きしています。
普通のジュエリー制作は製図を見てコンマ1ミリ単位で形成していくのですが、私の場合は落書き、フリーハンドからの絵だけで、製図からジュエリーをつくらない事にしています。
フリーハンドの曖昧さから生まれる、イマジネーションを大切にしながらの物作りに付き合ってくれる職人さんとの対話しながらの仕事になります。
このプロセスにおいて大切にしていりのは『引き算』、それでいて、ストイックになりすぎず、遊ぶ余地を残しておく感じでしょうか。
一つ一つは完成度が高くないといけないのですが、遊べるスタイリングの余白を残すようにデザインしています。
“ヒロタカ”のジュエリーの特徴はどんなところでしょう?
日本的美的感覚はどういうところに反映されているの?とよく聞かれますが、日本人の美学を一言で表すと『削ぎ落すこと、引き算だと思う』と答えています。
またデザインする上で常にしていることは、『抽象度』を高めることも重要な要素です。
引き算し終わったものは、たくさん重ねてもうるさくならないんだと思います。
引き算のし終わる、ギリギリのところとはどういう感覚なんですか?
実は、もともと私はモア イズ モア、『夥しいくらいたくさん』が好きなんです。半端ない収集癖がありますし、のめり込みやすい性格なんです。(笑)
でも逆にそういうところがないと、断捨離をやり切った爽快感ってわからないじゃないですか。もともとシンプルな人だとわからないですよね。そういうプロセスを通過しないと分からない領域がある気がします。
海外で日本は宝石をつける文化が近代史にはなかったのに、ヒロはなんでそうなったの?と聞かれるんですよ。
そういうときは、ガンダーラ美術にみられる仏像から、日本に来た頃の仏像の洋服の違いの話をして、相手は困った顔になります。(笑)
仏像は宝石を身に着けているでしょう?アフガニスタンやインドの仏像はじゃらじゃらととくにすごいじゃないですか。私、仏像やマハラジャスーパースターみたいなイメージに実は影響されている気がします。
そこから得たエッセンスを洗い流して、引き算して、抽象度を高めて、都会で身に着けることが出来るジュエリーになると思います。
寛崇さんはどんなことにインスパイアされるのですか?
一番のインスピレーションの源は常に動植物の多様性です。
ただインスピレーションは毎日色々なところから降りてくるので、特定するものはないのですが、例えばN.Y.の街なら、グッゲンハイム美術館で絵を見ていたり、レストランで食事をしているときだったり、見たものすべてからですね。
芸術家が描く絵の色だったり、メイクアップアーティストが作り出す色使いだったり、人の作り出す色のバリエーションの複雑さ、そして自然界が生んだ南国の鳥の色彩の素晴らしさ、どちらにも畏敬の念を覚えます。
私、もともと動物学者になりたかったこともあって、環境の生態系とかに興味があるんです。北カリフォルニアの沿岸には、ジャイアントケルプの森があるのですが、ケルプの森の中で、宝石のように輝く生き物たちを想像することでデザインが生まれたりします。もちろんケルプの森は生物が多様でとても危険ですから、想像の世界で旅をします。
そんな自分の中のインスピレーション源をなくさないためにも、環境保護の活動にも取り組んでいます。
インスパイアされたものをどうデザインで生かすのでしょう?
例えば、“バンブルビー”のイヤーカフも、丸い石から針をちょこっとだけ飛び出してクマンバチを連想させたり。通常は棒を貫通させないと思いますが、少し出たところがポイント。とにかく抽象度を高くするのが私のテーマ。パっと見わからなくても、「あ、これハチだったのね」とエッセンスだけ感じてもらえればうれしいです。
蜂を抽象化したチャーミングなパールピアス
オニキスとパールに加えて、今回マラカイトが加わりましたね。
グリーンは深みのあるものから、明るいトーンのものまで、人種問わず似合う色だと思います。色だけが悪目立ちしないですし。
マラカイトは素晴らしい鉱物です。
古代エジプトでは油脂と練り合わせてアイシャドウにしたり、日本画の顔料にもなっていたり、人類が長く付き合ってきた石だと思うんです。石自体も柔らかいので色々な形にもでき、パールに合わせてもその色合いが引き立つと思いました。
パール×オニキスの組み合わせも永遠。女性が着るタキシードのような佇まいで、スタイルを辛口にまとめてくれます。
たくさんある石の中からどうやって選んでいるんですか?
色石は、着用する方のパーソナリティが引き立つように、あまり突飛な色石は選ばない傾向がある気がします。
例えば、メイクと喧嘩するような感じの色は避けたり。私が苦手とする石の一つが、ブルートパーズですが、お顔周りでは主張が強すぎます。でもアマゾナイトや、パライバトルマリン等、の鮮烈な上品さは素晴らしいと思いますから、単なる個人的な好みですね。(笑)。
私なりの人の顔に合うトーン、カラーパレットがあります。そこから外れたものは特に顔まわりには使用しないことが多いと思います。
新作のイヤーカフは今回4つありますが、それぞれのこだわりはどんなところですか?
このダイヤモンドのものは、オブロングという素敵な名前を持つ形をモチーフにしています。
極小のダイヤモンドがセッティングされていて、ラインを強調しています。もうひとつは、1.3ミリという極小のキャビアパールを並べたもの。このキャビアという響きが”ロシア的”な印象を与えています。
この大きさの数を揃えるのも至難の業ですが、この極小パールに一つ一つに穴を開け、ゴールドの”芯”を立て、レーンの中にセットするのも、ハイジュエリーの技術をもってでしか完成しないものなのです。
丁寧に仕立てられた代表選手の様なジュエリーです。
ハイジュエリーの技術で作られているイヤーカフ
キャビアパールのイヤーカフ
こちらの2つは彫刻っぽくてアートピースのようですね。
これは“マルハナバチ”を抽象化したデザイン。
スペイン人による彫刻や絵画に感銘を受けて、ミロからインスピレーションを受けたものもありますし、アールデコ的な”硬さ”もあり、そういった豊かな時代のエッセンスをヒロタカ流にモダンなスタイルにまとめました。
もうひとつのダブルの線を描いたものは、とてもシンプルですが、すべての工程がハンドメイドゆえに職人さんの技術が集約されています。10金を使用することで、ライトイエローカラーに仕上がり、バネ性も強く、他のカラーとのミックスコーディネーションにも合います。
アールデコ的なデザインのイヤーカフ
曲線が美しいイヤーカフ
寛崇さんならどうやってスタイリングしますか?
単独でつけても良いですし、4つを重ねるのも良いと思います。“アロー”とか、“ゴサマー”の様なスタイルと合わせても面白い。
私なりに観察して気がついたんですが、30代と40代だとピアスの穴の位置が違う様に思います。時代によってのトレンドなのでしょう。30代前半の人は、耳たぶギリギリに開けている人が多いけど、40代になると、もっと真ん中。なので、30代の人には真ん中にもう1個開けて、ダブルデッカーで2階建てにするのをお勧めすることも有ります。
ヒロタカをリピートされる方の多くがピアスホールを増やされたりしています。
顔と言うのはとても奥が深いパーツですから、スタイリングの可能性が無限大だと感じています。色々な方の眉毛の位置やら、顎のラインをいつもじっくり観察しています!
“ヒロタカ”というとイヤーカフのイメージが強いのですが、ネックレスも人気ですね!
私にとってネックレスはお守りの様なものだと捉えています。胸元にあるパーソナルなものだからこそ、ずっと身につけていられるものを目指しています。
これは、幸運のタロットカードの『運命の輪』をインスピレーションとしています。少し丸みを帯びたコイン状のトップは、”鳩目”アイレットスタイルで、小さな彫刻の様に仕上げました。
私のアートの先生は、アレクサンダー・カルダーやコンスタンティン・ブランクーシ、ブルーノ・ムナーリといった自由な人たち。子供のスピリットを持っていて、あっけらかんとした遊びを追求した先輩達。そんな『遊び』を何気なく小さな物の中にも表現していきたいと思っています。
お守りのようなネックレス
陰と陽を表現したチャーム
チャームの小ささも可愛いですね!
チャームには直径1ミリのダイヤモンドを配しています。0.1ミリという微差で印象がまったく違ってくる小さな世界なので1ミリでないとならないのです。職人はサイズを厳密に揃え、カットを揃え、その上なんと留める方向も揃えるのですから、ルーペを通して細心の注意を払って行います。
ベース部分は手磨きのマット仕上げをする事で、石の輝きがより映えるよう仕上げています。チェーンも、直接肌が輝いて見えるようカットの入っているチェーンを採用。
ある有名なジュエリースタイリストさんが年取ったら細いチェーンだとシワに見えるからダメよ、と言われていましたが、カットのお陰で煌めきだけが繊細な印象に残るデザインなので、”シワ”には見えないので大丈夫です。(笑)
アジャスターを忍ばせていますので、お洋服の襟元に合わせて自在な長さ調節が出来るのも便利です。
職人技術で1ミリのダイヤモンドを施したチャーム
最後に、コロナ禍という閉塞感のある時代ですが、何か変化はありましたか?
マスクが手放せない中、ジュエリー選びも難しいと感じられる方もいらっしゃると思いますが、マスクなんて気にせずに好きなものを付けたらいいと思います。
ヒロタカは、なんと中東はクウェートでもお取り扱いがあります。
中東の女性達は、漆黒のヒジャブを常にまとって身体や顔を隠してられますが、どうやらお洒落とそれは別物と言う事なのですね。ヒジャブの隙間からチラリと見えると、実はおびたたしい数のジュエリーを付けていたりして、思い思いにお洒落を楽しんでいる様です。誰に見せるわけではなくても、自分は美しい輝きをまとっている事を知っている訳ですからね。
今は着飾って出かけられないし、旅行もできないし、色々できないづくしですが、本当の自己満足をもっと追求して自分を喜ばせてあげるのも、悪いことではないですね。(Hirotaka Inoue談)
楽しいお話をたくさん披露してくれた井上寛崇さん。お話を聞き終わるころには、そのハッピーな人柄ですっかりファンに。ジュエリーってもっと自由で、もっと楽しむものなんだ、と教えていただきました。
撮影/坂田幸一 取材・文/土橋育子 構成/内山しのぶ
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