「断る」って悪いこと? メイクアップアーティスト 吉川康雄「世界はキレイでできている」Vol.22

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あくまでも人との関係はフェアが基本。自分だけ、相手だけが“いい”では、関係は続きません

道に並べられた鉢

それぞれの鉢は小さな宇宙のように個性的。マッチしてもしなくても、道に並べられ飾られています。<Photo: Mikako Koyama>

「ちょっとコレやっておいて」「アレお願いできないかな?」と、幾度となく耳にするお願いフレーズ。お世話になっている人、サポートをしたいと思っている人からの依頼にはできるだけ応えたいとは思うものの、いつもできるとは限りません。となると頭を悩ませるのが、その断り方。相手との関係性を壊さず、上手にノーと言うにはどうしたらいいのでしょうか?

「これは『断る』という行為が問題ということ? それとも『断れない人間関係』が問題なのかな? まず最初に、『断る』ことについて考えてみますね。仕事であれば、『スケジュール的に厳しい』『物理的にできない』など、明確に断ることができますよね。とはいえ、オフィスのムードにもよるのかな。例えば、実質10人でやるような仕事なのに現実は3人でこなさなければならなかったり、どんなに無理な状況でもノーとは言えず、人間らしい生き方ができないくらいブラックな環境なのであれば、断るうんぬんの話ではなく、転職するなど、別のベクトルでの解決法が必要だと思います。

そういう選択肢を含めて、仕事の『断り』は何らかの解決法が見つかりそうです。ただ、皆さんが頭を悩ませるのは、おもに個人間での断り方、つまり『断れない人間関係』ですよね。友人だったりお世話になっている人だと、いろいろなことが絡むので、確かに厄介かもしれません」

庭先に並べられた植物

誰かに並べられた庭の植物の風景は、自然に咲く野花と何か違う。<Photo: Mikako Koyama>

「そもそも頼みごとをする人と、される人との間にはこれまでのヒストリーがあります。当然、さまざまなシーンで自分が相手を助けたり、相手に助けられたりしているはず。この“人に助けられたこと”は、どんなに小さなことでも決して忘れてはいけません。すべてをギブアンドテイクに、と言いたいわけではありませんが、これまでお付き合いがある人から何かを頼まれたのであれば、自分のできる範囲でやってあげればいいと思うんです。

僕の場合…あまり興味のない仕事をエージェンシーが持ってきたとします。正直、断ってもいいかなと思っても、僕がこの仕事を受けることでエージェンシーがうるおうのであれば、自分の都合がつくかぎりお受けしようと思います。なぜなら、これまでエージェンシーが僕にとって楽しい仕事を持ってきてくれたという過去があるから。自分だけいい思いをして、そうじゃないときに断るというのはやはり相手と対等ではないし、ともするとこれまでの関係が消滅してしまうこともあると思います」

自分へのメリットがなく、搾取されるばかりであれば、やはり断っていいと思います

つながりのある人からのお願いであれば、たとえ「イヤだな」「無理だな」と思っても断らないほうがいいのでしょうか? それによってストレスが生まれないでしょうか?

「これは僕個人のとらえ方ですが、平たく言えば、人ってあまり頼みごとをしたくないんじゃないかな、と感じています。でも、自分一人では生きていけないから人に助けを求めてしまう。社会に出ればそうそう親に頼るわけにもいかないし、かといって一人で何もかもやるというのは不可能。やはり助け合いは必要です」

雑多に並べられた鉢

全然違うものたちがいい感じに並べられていました。<Photo: Mikako Koyama>

「でも、関係はフェアでないといけない。ビジネスの商談なんかがいい例だと思うのですが、自分のお願いごとに対して相手にもメリットがないといけないと思うんです。だから、僕がお願いごとをする際には、必ず相手が得する部分を想像して、フェアであるかどうか確認します。これは僕が人にものを頼むときのルールにしています。でも、価値観が違うと相手がメリットを感じないことも。そういうときは、逆に、断られることで未来のトラブルを回避できるので、僕は相手の正直な対応を失礼と感じることはありません。こちらがお願いをするのに、相手のメリットがないのは、正直フェアじゃないかなと思うんです。その逆も同じで、自分にとっては搾取されるばかりだと思うお願いごとであれば、自分を守るためにもやはり断っていいと思います。

エージェンシーがいるとはいえ、フリーランスの僕は、そのつどギャランティの確認をします。その際、大幅に値切ったと思われる価格を提示されたら、それはお断りします。よく、自分を謙遜する人がいますが、僕の場合は、自分に対してできるだけ過大すぎない、過小すぎない見方をいつも心がけています。その上で、『自分はこの価値ではない』と思ったら、相手にそれを伝えます。

でもだからといって、お金の問題だけではないんです。楽しそうとか、僕自身、勉強になることがあるなど、自分にとってメリットがあれば、もちろん、そのオファーはお受けするし、それがストレスになることもありません。

僕の仕事を例にしたけれど、これって一般社会でも同じなんじゃないでしょうか。お願いごとをされたときに、自分へのリスペクトが考慮されているかどうかで、『受ける』『断る』を決めたらいいんじゃないかなと思います」

「嫌われたくない」「自分さえ我慢をすれば」の思いでお願いごとを受け入れていると、確かにストレスがたまります。断ることはとても難しいけれど、自分と相手とのこれまでの歴史、自分の気持ちを大切に、時には断るという選択ができる自分になりたいですね。

吉川康雄

メイクアップアーティスト

吉川康雄

1983年にメイクアップアーティストとして活動開始。 1995年に渡米。2008年から19年まで「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターを務める。現在は、ニューヨークを拠点に、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレートなど、トップメイクアップアーティストとして活躍中。自身が運営するウェブメディア「unmixlove(アンミックスラブ)」で美容情報を発信する中、2021年春に「UNMIX」を立ち上げる。

取材・文/藤井優美(dis-moi)  撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)

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September 26 Mon